『ぶらんこ乗り』 いしいしんじ

01/01/1970

本当は『ポーの話』を読んでみたかったのだけれどまだそれは文庫本になっていなくて、そのときの私は文庫本が読みたかったから。
最近仲良くなったひとが小さい頃にぶらんこをこぐのが上手だったと言った。
ぶらんこのくさりに腕をからませて、揺られながらくるくると他の方向に体をよじったり、でんぐり返しをする。
友達に、あれやってよ、って言われてぶらんこの技を見せながらきっといつかサーカスとかのひとからスカウトが来ると信じていたそうだ。

私はぶらんこが恐かった。
自分でこぐ分にはいい。
でも背中を押されることが物凄く恐かった。
箱ぶらんこもそう。
友達がこぐ箱ぶらんこには、もう恐くてこわくて乗っていられなかった。
少しでも友達がぐん、と加速をつけるとかならず途中で飛び降りた。
こわい、なんて知られたくなかった。
その当時の私は男の子みんなに恐がられているような、女の子みんなに頼られているような、おてんばな子供だったから。恐いよ、って冗談にしか聞こえないようにわざと言って飛び降りた。
本当は心臓がどくんと痛いくらいだった。

恐いなんていやだったからひとりきりになった時に箱ぶらんこにのる練習をした。やっぱり恐くはなかった。がちゃん、と箱ぶらんこが潰れちゃいそうに勢いをつけても。
きっと私はすべてを自分で把握したいのだろう。
ジェットコースターが恐いのもたぶん同じ理由。

ぶらんこをこいでいると、とてつもなく高く自分の体が跳ね上がっていくことにどきどきする。
振れ幅がどんどん増して、両端の点で止まる一瞬が長くなる。
私が呼吸をしなおすのを待って。
ふたたび空が遠退く。
空気に放り出されて私は世界でひとり、自由になる。
そのうち自分がつくりだした風のなかを往復しながら、私はだんだん恐くなる。
ほかでもないこの足が空気をかいて空にのぼってゆく繰り返しは、まるで誰かに急かされているみたいに。
まるで誰かに引き寄せられていくみたいに。
脅迫されているみたいにやめられなくなる。
どきどきのその際限まで、意志とは裏腹に挑戦してしまいそうで。

どうしてかこの、真っ白くなるくらいくさりをぎゅっと握った手を簡単に離してみようと思いついてしまいそうで、
恐くなる。

ぶらんこ乗り