* 『殯の森』 河瀬直美

04/01/2009


いちばんはじめに私がみたソクーロフの映像を思い出した。
あれはなんという作品だったのかいまだに分からない。
日本のおじいちゃんとかおばあちゃんがすごく暗いぼんやりとした光の中で話をしている。
日本語なのに何をはなしているか時々分からなくなる。
息苦しい夢のような映像だった。

もしかしたら監督の河瀬さんはロシアの映画が好きなのかなあ。ふと、そんなことを考えた。
まだつるつるの青い稲が風にざあっと吹かれるシーンはすごく美しかった。
『鏡』を思い出す。
風のタイミングとか、まるで意志があるみたいなところとか。だってちょうど、誰もいなくなったときに騒ぎ出すんだもの。

日本人の私が日本人の監督の撮った日本のひとびとを見ているのに、なにかちょっとした違和感を空気全体に感じた。
時代のずれのようでもあるし、地域性なのかもしれない。
外国のひとに向けてある日本のイメージを濃くしている、というまでのあざとさではなくて、私が神秘を感じている日本の部分をいいあんばいに引き抜いているのかもしれない。そんな感触。


33年前に奥さんを失くした老年にさしかかった男性と、まだ小さな息子を自分の過失のせいで(と信じている)失くしてしまった若い女性。
そのふたりが森に迷い、少しずつ通じ合いなにかに癒されてゆく、とあらすじを言ってしまうとなにやら内容が想像できてしまうような簡単さがあるけれど、この作品に含まれていたものはことばではうまくいえなくて、感じるしかないような気がする。
忘れられないのも、愛情をもつことも、自分のせいだったと責めることも、そこに理屈はない。
自分がそう感じたらずっとそうだし、何かに簡単にまげられはしない。
呪縛をとくのは結局、自分しかいないのだなあと思う。
縛られるのに理由がないのと同じくらいに、そこから解かれることにも理由とか、方法みたいなものはない。
何がこころをほぐすことになるのか分からないし、ほぐれたと思ってもまた罠みたいにどこかで捕らえようと待ち構えているかもしれない。

土を掘って、子供のように安心した顔でまるくなるしげきさんの傍で、たくさんの樹のそよぎに包まれながら少しずつ光を見てゆく主人公。
空をずっと見つめる彼女の表情がどんどん変わってゆく。
こころにすとんすとんと、なにかがつもってゆくのがみえる。
ラストに近づくにつれて胸がきゅーってなってきて、終わったあとになかなか涙が止まらなかった。
こんな気持ちになったのは久しぶり。

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