* てさぐりで

04/17/2009


疲れていたのか夕飯を食べてちょっと本を読むつもりが眠り込んでしまった。
ときどきそんなことがある。
お風呂に入って頭をごしごし洗いながら色んなことを考える。
主に踊りのこと。

ずっと霞のように自分を捕らえてきたことを冷静に見つめる。
冷静にというか、素直に、自分勝手じゃない思考回路に切り替えて。
…とはいってもどうしても自分がその中心にいるので繰り返し行ったりきたりはするのだけれど。

なにがよくて、何が悪かったのか。
そんなふたつの単純な基準のあいだをただうろうろしていた。
あの時ふとからだが軽くなったのは、別の旋律の可能性をつまんで動いてみて、それで確かに自分がひとつ前の踊りとはちがうところにいて、違う空間が見えたということ、それを感触でつかんだからだと思う。
そしてもしかしたらだからはみ出さずにいられたのかもしれないと。
そうか。
アプローチはそっちからか、その方向だったら私にも感覚を裏切らずにできる!
と、わくわくしたから。

いろんなタイプの踊り手がいると思うし創り手がいると思うけれど、自分が欲しいと思った、聴こえてきたメロディとか息継ぎの中で自分はどんな旋律を描こうかというところから動きのタイミングを決める。
今踊っているのは決して展開の多い曲じゃない。
けれどそこには豊かな息づかいとか、ぞんざいに触れると狂ってしまうくらいに繊細な揺れがある。
厚みがあって、じっくり別の顔を見せてくれる、そこまで聴かなければいけないと思う。
一番美しいと思う、いちばん気持ちのいいアクセントとか隙とか反逆はもっと見つかるはずで、私が怠っていたのはそこだったのだという気がする。
同じ音楽を聴いて創り手がどこを拾いたかったのか、他のダンサーたちが何を聴いているのか、それは決して私とは一緒じゃないと思う。
でも同じ空間で、それぞれが奏でるものが心地よくかみ合ったり、乗りあったりしたい。
なのに私はひとつとかふたつ見つけたと思ったものに固執して、それを壊してみたりはぐくんでみたりしていなかった。
しているつもりだけれど、なにか、こだわりと怠惰を勘違いしていて、そこに留まろうとしていたんだと思う。

ここには誰も、見えなくなるひとなんかいない。
埋もれていいひとなんかいない。
私もそのひとりだということを何よりも自分が信じて自覚しなければはじまらない。

もしかして自分の強みなのかもしれないということも、友人の言葉からなんとなく。
(でもそれはかなり太いパイプで欠点に結びつくんだけど)
自分が得意じゃない種類のことは少し分かっている。
ひととの間合いや、ちからの関係、呼吸を感じ取ること。
つい見えなくなるのはその都度驚き、隠そうとするからだ。
わからなくなったら足を止めるんじゃなくて、連れて行ってもらえばいい。
みんなはどう動きたいの?
どの音を聴いているの?
そして私はそこから何をみつけたいのか。

私はわたしのからだをもてあましてる。
きりがなくくにゃくにゃ動いてしまう肋骨とか、決まった方向のない関節とか、首をどこに置いたらいいのか、重力にどのくらい自分を任せたいのか、自然落下のスピードと動きたい速度が違うときにどう操ればいいのか、手首はこんな場所にいたくない、右肩の癖、骨盤を傾けてしまうやりかた。
それをちからで説き伏せようとしている。
重い。
体重も重いんだけど、べったりと貼りついてるのはきっと私の頑固さなんだろう。
でも違うんだ。
わたしはこんなふうにしか動けないわけじゃない。
動かないのも動き。
不自由とはちがう。
軽さも、重み。
なにもないわけじゃない。
(むしろ、なにもなくなんて難しくてとても私にはできない)
単純すぎる思考回路を離れなきゃ。
ときどき思考を離れて好きなように動いてもいいけれど、固着はしない。

こんなに身近にたくさん、いいダンサーがいる。
ひとりとしてわたしとは似ていない。
それはわたしだけが違う、という意味ではない。
毎日ヒントをもらうことができるはず。
ずっとこんな環境を望んでいたはずなのに。

+

お風呂から出てベランダから遠くまでまちを眺める。
タクシーが遥かを横切っていったので、私は運転手さんを想像する。
たぶんもうお客さんは乗っていない。
ハンドルの感触。
皮の感じ、タイヤが接している道路の手ごたえがどのくらいの重みなのか、どのくらいの明かりがフロントガラスににじんるのか。
おしりに響くエンジンの音。
たくさんの家がある。
たくさんの灯り、灯りの消えている部屋。
そこに赤ちゃんも、おじいちゃんも、私くらいのひともすうすう呼吸をしながら眠ったりお酒を飲んだり、ぼそぼそとテレビをみたりしている。
誰も、私がみんなのおうちを見つめてその全てを包み込もうとしていることを知らない。
その触覚を私が写し取ろうとしていることなんて、あの運転手さんは想像するわけもない。
私の視界のなかにこんなにたくさんのひとが生活してる。
見えないところ、地球の裏側までのことを考えたら急に自分がそのなかのひとつになった。
ああ、そこまではとても手に負えない、と思う。
今のわたしじゃ、まだ。

みんな踊ったり、好きなことのことで悩めばいいのにと思う。
世界はそんなに単純じゃないことも分かってる。
でも、みんな、すうすう寝てるなあ、って、思えればいい。