解体、星でいっぱいの海

05/30/2012

いつも自分を守ってきたような気がする。
自分を男の子みたいだと考えてきたこともそのひとつだし、いつも元気に笑っていようとしていたこともそうだし、悪いことを言わないようにしてきたこともそのためだった。
守ることでわたしはあたたかくてやわらかでこころ穏やかな光に包まれていることができた。自分は強いし、他のひとからそう外れていないと思うことができた。優しい自分でいることができた。
ひた隠してきた面を見ないことで、見せないようにすることで、いいことだってたくさんあった。けれどもしそのことでいい印象を周りに与えていたとしても、わたし自身はいつもそれが自分の本当の姿ではないような気がしていたから不安だった。
わたしには意地悪な気持ちもたくさんあったし、人一倍女々しいところがある。ちょっと口を滑らせるとこころない言葉が飛び出してきたりもする。激しい欲や自分勝手がごうごう燃えている。
苦労もしらず、ずっと誰かに甘えたり守ったりしてもらってきて、自分がいる場所はいつもかりそめの、誰かの苦労や好意の上に成り立った借りものの場所のような気がしていた。
ひととちゃんと話すのが苦手なのは、ことばがうまくないせいだけじゃない。
ちゃんと話せるほどの厚みがないことを自分だけはよく知っているし、もしほんとうは隠しているはずの自分を察せられたら、きっと嫌われてしまう、興味を失くされてしまうとこわかったからだ。

なにもかもが裏腹で、うまくすりあわない、自分のことがよくわからないからそんな自分で誰かとほんとうにまじわることができない。
考えるとさみしかった。
誰かにたとえば認めてもらっても、それはほんとうの自分じゃないし、誰かにたとえば好意をもらっても、たぶんそれは長くは続かないのではないかとおそれた。

ことばを書くときにも、発するときにも、全部遠回りする。
何も決めたくないのは、そのひとから奪いたくないのではなくて、自分を特定されたくないからなのではないか。

ほんとうに守っているのがただ自分だったのだ、という自覚はわたしを大きく変えそうな気がする。
守ろうと、守るまいと、隠そうと隠すまいと、ということがどうちょっと接したらみえてしまうのだということがどうして今まで自分には当てはまらないことだと考えていたんだろう。

 
だいじなひとと過ごしたり、ひとに逢ったり、書いたものを読む機会がこのごろいっぺんに押し寄せて、わたしはどんどん解体されてゆく。
長い時間をかけてかたちづくってきたことが洗い流されようとしている。
まだ手放せない。手放したいのに必死にその、慣れた場所に立ち返ってものを考えようとする。
けれど、真ん中にはやわらかく準備ができているのを感じる。
だから不安はない。
今まで積み上げてきたことなんかぜんぶ剥がれていってしまえばいい。
はがれて真ん中だけになっても大丈夫だと知ってる。
甘えっぱなしだったり与えてもらったりしながら、しょうもなくひた隠しにためこんできたことのなかにはだからこそ強くて揺るがない部分もあって、それは色のない珠のように、強く灯っている。
そこにはやく辿り着くことができたら。
そしてほんとうのものを、もういちど積み上げたい。

+

ふと、友だちのお母さんに星空の海から電話をかけたことを思い出した。
彼女は世界のなかにもほんの何人かしか生きていない難病をかかえていて、外の世界を長らく知らなかった。
社員旅行のいろいろに疲れた私と友だちはこっそり宿を抜けだして夜の海を散歩していた。
砂浜は真っ暗で歩くのが怖いくらいだった。
遠くの灯台がくっきり長い光を振り回していた。
夜の海にも謐かにいきものがいた。
きゃあきゃあはしゃぎながら大きな海に近づいて、見上げるとびっくりするほどの量の星があった。あんまりたくさんあって怖いくらいだった。
宇宙だね、とわたしはいった。
お母さんに電話しようよ、と携帯から電話をかけた。
話をしたこともなかったのだけれど、星がきれいなんだよとただ、話したかった。
電話をかけて、わたしは子どもみたいに、そのことを伝えた。
突然よくわからない電話をかけたのに彼女はありがとう、と言ってくれた。

その友だちにはたくさん助けてもらった。
ほんとうにしんどい一時期、家に帰ることもできず、ひとりでいることもできなかったときに一緒にいてくれた。
一緒にハーゲンダッツを食べて、出前をとって、犬になめられて、寝泊まりさせてもらった。泣きながらぐずぐずと長い電話をかけた。
彼女はいつも丁寧にメールを送ってくれて、それはわたしがひとを憎みそうになる気持ちを、自分を憎みそうになる気持ちをいつもたいらかにしてくれた。

お互い毎日のようには会わなくなってから、友だちから電話があった。
電話をとったら彼女は泣いていて、すぐにどういう電話かがわかった。

お母さんがわたしに残してくれたことばがある。

あなたはおどるひとなのよ、丁寧にこころをこめて、踊ってね。

いつもひとまえで踊る時、このことばを思いだす。

+

たくさんのことを疎かにしてきた。
ひとも、おもいも、かんじることも、時間も、ぜんぶ。
もう取り返せない。
これからだって全部は改められない。
全部手にできないなら最初からみんないらない、って投げ出したいけど、投げ出したくない。
泣きながらでもひと粒ずつ食べる、みたいなことをこれからしていくんだろう。