マッサージチェアのある本屋の病院

02/28/2013

電車への乗り場に抜けるエスカレータは建物の東側に隠れるようにあって、ごちゃごちゃとした紳士服屋とか催事場を通らなければならない。
階下に降りるとそこだけがらんと広い廊下に20台くらいのマッサージチェアがあって、顔の皮膚が不思議にてかてかして足の長い女の人たちでほぼうまっていた。たぶんなにか催し物を終えたモデルさんたちなのだろうと思う。ひとりひとり違う服を着ているのにざっと全体を見回すとスチュワーデスの制服のように統一されて見えた。顔も髪型もそれぞれなのに笑顔や香りや美しさの水準のようなものが一緒で、全部でひとつの存在のように見えた。
時間があるし椅子も2、3箇所空いていたから私も試してみよう、と思う。
図書館の一角のような仄暗い古本屋があってマッサージチェアはその本屋が提供しているようだった。本を一冊選んでマッサージを受けながら読みましょう、というような雰囲気。
大きな回せる棚の前に波うった真っ黒の髪をした男の子がいた。色が白くて首が長くて私が棚の前に足をとめるとユニコーンみたいな眼差しで柔らかく振り返った。本が好きなのだ、というお互いの了解のもとに微笑みあう。
右側の棚にはとても分厚い哲学書とか生物図鑑、表紙の箱に筆で題名が書いてある全集。あとは青空文庫で只で読めるよく名前を聞く文学とか薄い絵本、ぺらぺらした説明書のようなものが雑然と積まれている。
面白い本を掘り起こすには時間がかかりそうだったので手元にある本の続きを読むことにした。
椅子を選ぼうとするとさっきまでいたモデルさんの集団は誰もいなくなっていた。
係の年配の女性が、美しくなるために果物のジュースをサービスしていますと話しかけてきてくれるので、お願いする。
あちらからお出ししますと言うので見ると本屋の手前に半円形の入り口があって、4人の人がギュウギュウになりながらこちらを見ていた。どうやらふたつの病院の受付がその狭い半円形を共有せざるをえないようだった。係のかたはそこにいるお医者さんと相談してどちらの病院が担当するか、どのジュースを出すかの相談をしている。
待っている間にいつのまにかそこにいた良太くんが外壁に貼られた銀色のシールを見つける。かろうじて読み取れる会社名は警備会社だった。このビルに入っているの知っているんだ、前に通りかかったけど倒産寸前みたいな会社だったよと教えてあげる。
突然空気がざわめき、ワゴンのようなおみこしのようなものが大急ぎで運び入れられてきた。ここは病院なのだから救急の患者さんが来るのは当たり前なのでそんなに驚きはしなかった。
大丈夫かな、と眺めようとする。もうワゴンは通りすぎてしまったし上にがさがさと白いシーツが積まれていたので患者さんは見えなかった。
すると咄嗟に係の年配の女の人は私の目を塞いで、あれは変死体だから見てはいけない、と言う。たぶんなにか事件があったのだ。私は目のなかに残る残像を思い出そうとするけれどやっぱり白いシーツしか残っていない。血のような映像を探したけれど、なかった。
ただ、微かに生臭いような気がしてこころがざわめく。
係の女性は私が傷ついたと思ったのかもしれない。抱きかかえるように入り口から遠ざけ、孫やペットを可愛がるように私の手を温めたりほおずりをしたりしてくれる。彼女の頬はさらさらとしてやわらかかった。
そんなにおおきなショックを受けていたわけではないので甘やかされていることが少し照れくさかったけれど、触れられていることが嫌ではなかったのでされるままにしていた。
もうそこは公園につながる往来で、マッサージチェアはどこにもなかった。