夜明けの海

01/01/2012

明けていく海を見てた。
火を見ている時とは違う、黙って着地するような、諦めて等身大の影に収まるようなこの静かな心持ちはもしかしたら暗い海と向かい合ったとき特有の感触かもしれない、と思う。
明るくなる空が境目をはっきりさせてゆく雲、暗い水平線に接する灯台、最後の星。
きっと大きすぎて手を出す気もしないんだろう。
だから口をつぐんでいる。
諦めが肚を据えてくれているからこんなに静かで、澄んでいる。
夜の海はからだのなかにある。
からだの境界だってわからなくなる。
見ているものはほんとうにからだの境目とは関係がないのだろうか?

ひとりで見ているのがもったいなかったけれど声にならなかった。
そしてそのとき、突然気づいた。
なにも絶対に伝えきれないのだ。
わたしが受けたことはなにひとつ誰とも完全には共有できない。
どんなふうに山との境がだんだんはっきりしてきたか、灯台にまつわる記憶、眠らない夜明けの歌の舞台袖のこと、聞こえない波、ぶれた鉄塔。
こんなにいっぺんにやってくることは私にだってつかみきれなくて息もできない。
時間やそのほかのことと同じだ。
どんな手段でも伝えられない。
一緒にいま、隣で見てくれたとしても無理。
わたしが見ているものも感じていることもただひとりわたしにしか許されていなくて、それを私は孤独と名付けているのだし、そして絶対に同じことは体験してもらえないと知っているから、だからこそ踊ったり撮ったり書いたりするのかもしれなかった。
矛盾みたいだけど、絶対同じものはない、伝えられないのだと分かっているから伝えることしかできない。
伝わらないと知りつつトライしているのとは違う。
絶対に同じじゃないから伝えなきゃいけない、ということに少し似ている。
伝えたい、とも違うかもしれない、そこに置いておきたい、そんなもっと身勝手な欲なのかもしれない。
わたしには知り得ない景色を知っているあらゆる存在に。
なにを確かめたいのかわからないけれど。